子供の可能性を引き出し、伸ばす…3つの「新しい学校」が考える未来

公開日時:2022-06-08 15:45:07  
カテゴリ:事例/グローバルヘ育

学習面以外でもサステナブルを意識している
学習面以外でもサステナブルを意識している
画像出典:白馬インターナショナルスクール
 日本がグローバルで勝つためのさまざまな課題について、関心のある人々が共に学び、国境を越えて繋がり、グローバルで成功する日本人・日本企業を増やすことを目的としたカンファレンス「キリロムグローバルフォーラム(KGF)」。第9回目となる「KGF2022」が2022年4月29日から7日間にわたり開催された。

 伝統的な教育手法に囚われない「オルタナティブ教育」が子供の可能性を広げると注目されている。公立学校とは一線を画す画期的な学びの場を提供しているオルタナティブスクールや、インターナショナルスクールを立ち上げた3名により、学校の特徴や設立の背景、子供の成長に理想的な環境についてセッションが行われた。鹿児島大学客員教授・谷川徹氏がモデレーターを務め、スピーカーにはラーンネット・グローバルスクール代表・炭谷俊樹氏、学校法人神石高原学園理事長・末松弥奈子氏、白馬インターナショナルスクール設立準備財団 代表理事・草本朋子氏の3名が登壇。自らが立ち上げた新しい学校にかける深い想いを語った。

セッションに登壇した炭谷氏(左上)、末松氏(右上)、草本氏(左下)、モデレーターの谷川氏(右下)

ラーンネット・グローバルスクール

子供たちが主体的に学ぶようになる環境とは

 子供に合った環境の中で育てることで、子供のもつ可能性を広げたい――そう考える保護者は多い。昨今、そのようなニーズにフィットする、新しい教育スタイルを提供し、公教育とは一線を画す「オルタナティブスクール」にスポットライトが当たっている。

 自らの子育て経験を生かし、26年前にデンマークの探究型教育をベースに「ラーンネット・グローバルスクール」を設立した代表の炭谷氏は、その設立の背景をこう説明する。「前職時代にデンマークにいた経験から、勉強とは他人との比較や、テストの点数の高低で評価されるものではないと考えている。自分らしさや好きなこと、得意なことを見つけ、夢をもち、それに向かって自信をもって取り組み、やり遂げる経験を積んで、生き生きと生きる。そのような教育環境が子供に必要なのではないかと考えた」

 炭谷氏は、子供が学校でしたいことと、今の日本の学校でできることに乖離があると指摘する。帰国後、デンマークで教育を受けた娘と共に日本の学校を見ていると、とても窮屈そうだと感じたという。

 子供は基本的に興味があることを学びたいし、勉強ができた満足感を味わいたい。自分のことを見てほしいし、聞いてほしい。自然が大好きで、触れあいたいという欲求もある。しかし日本の公立小中学校では、集団に効率的に教えることが目的となっているため、時間割やカリキュラムは決まっているし、テストの点数で評価され、コンクリートでできた校舎の中で、正解のみを追求する教育が行われている。このギャップを埋めるべく設立された「ラーンネット・グローバルスクール」には現在、幼稚園〜中学生まで、約50名の子供たちが通っている。

ラーンネット・グローバルスクールの特徴

偏差値から解放された学びの本質

 「ラーンネットが重視していることは、『自ら学ぶ習慣』、自立型探究だ。『自ら学ぶ」姿勢を身に付けるために、子供の意思で主体的に学ぶ時間を大切にしており、先生はおらず、代わりに専門性をもった大人が『ナビゲータ」として活動に入っている。子供ひとりひとりの興味や特徴を尊重してカリキュラムを設定し、チャイムも鳴らなければ、ペーパーテストも実施しない。点数や偏差値で評価されることももちろんない。子供の探究力を伸ばすための環境作りを念頭に、学校では『普通』と言われていることを一旦すべて手放し、考え直した」と炭谷氏は話す。

 神戸市の六甲山という立地を生かし、自然の中で活動する時間も多い。活動の内容や企画はもちろん子供たちが主導して決める。活動の中で起こる人間関係の摩擦も、子供同士で解決させるように促しているという。ただし、算数や国語等の基礎学習をおろそかにしているわけではない。算数は苦手科目になりやすい教科だからこそ、興味をもてるように工夫も凝らしている。学校的な枠がまったくないわけではなく、それらを「どう学ぶか」を子供たちが自分で選べるようにしているのだ。

基礎学力の定着にも工夫を凝らして取り組む

 「デンマークの幼稚園で出会った『ひとりひとりを尊重する』という考え方をベースに、テーマ学習やプロジェクト学習で探究力を身に付けている。身近なテーマについて科目横断的に、見学や実験等も取り入れつつ『実物・本物』で学んでいる。探究する力の強い子供は、自己肯定感も高いし、自ら工夫して学習する。この力こそが子供の可能性を広げる」と炭谷氏は述べた。

子供たちの探究力を伸ばすための取組み

神石インターナショナルスクール(JINIS)

ボーディングスクールだからこそできる「全人型教育」

 2020年4月、日本国内初の小学生向けボーディングスクールが開校した。その名も「神石インターナショナルスクール(JINIS)」。ボーディングスクールとは、生徒も教師も同じキャンパス内で生活をする、全寮制の学校教育のこと。欧州のボーディングスクールをモデルに設立されたJINISは、常に教師や友人といる中で、将来、自らの夢を実現し、より良い世界をつくる人材として、学習能力や語学を含むコミュニケーション能力、体力やマインドセット、自らの基礎を育むことを目的として設立された。

 英語と日本語のデュアルランゲージスクールであると同時に、文部科学省認定の一条校でもある。日本の小学校の学習指導要領と、国際教育課程として定評のあるIPC(International Primary Curriculum)をベースに、英語と日本語の両方で授業を受けることができるイマージョン教育が特徴だ。同校の設立者で、理事でもある末松氏は「文科省認定の一条校である、ということにこだわった」という。

JINISは文部科学省認定の一条校だ

 「欧州等では幼少期から教育のプロに子供を育ててほしいというニーズがあり、ボーディングスクールは珍しくない選択肢のひとつである。私は自分の子供をスイスのボーディングスクールに通わせた経験から、子供にとって素晴らしい経験と機会が得られる場であると考えている。しかし、子供を幼少期から全寮制の学校に預けるという文化が根付いていない日本において、海外のボーディングスクールへ送り出すことは今後もハードルが高いだろう。日本にボーディングスクールがあれば、新たな選択肢が生まれると考えている」と末松氏は述べた。

 広島県・神石高原町の豊かな自然とリゾート環境を生かした学園内には、生徒数よりも多い牛が飼育されている。少し足を伸ばせば山や海があり、サイクリングやゴルフ、テニスにスキー等、多くのスポーツに親しめる環境と機会がある。日本初の私立西洋美術館である大原美術館にもアクセス可能で、本物のアートにも触れることができる環境だ。また、日本の素晴らしさを理解したうえで、国際人として活躍できる人材を育てたいという想いのもと、茶道の授業を月に2回実施。その他、低学年では田植えや餅つき、高学年では陶芸等を実施している。

海外のボーディングスクールを目指す子供たち向けの取組み

 JINISに通う子供たちの多くは、中学から海外のボーディングスクールへ入の学を希望しており、同校にはそのための準備をする環境がある。設立から2年、試行錯誤しつつ学校カリキュラムはより良い形に変化を続けている。日本語と英語のデュアルランゲージ教育を受けることができるため、中学からは第二外国語に挑戦できるようになるという。欧州のボーディングスクールをモデルとしつつも、徹底して日本人としてのルールやマナーを学び、自立した生活が送れるよう、自分で自分のことはやる、掃除をする等、日本の生活様式のボーディングスクールとなっている。また、詰め込み型とも言われる日本の中学受験はアカデミックに偏重しているとして、JINISでは対応しないという姿勢を取っている。

 「今をしっかり楽しんでほしい。自主性をもち、さまざまな視点をもてるようになり、真の国際人として成長していく基礎を育むことができる環境を用意しています」と末松氏は結んだ。

白馬インターナショナルスクール(HIS)

白馬から発信するサステナビリティ教育

 日本で初めて「サステナビリティ教育」を実践する学校が2022年9月に長野県白馬村で開校する。中高一貫ボーディングスクール「白馬インターナショナルスクール(HIS)」だ。HISの代表である草本朋子氏は、旅行で訪れた自然豊かな白馬に魅了され、子育てのために夫と子供と共に移住した。廃校寸前にまで追い込まれた白馬高校の立て直し事業に携わったことがきっかけとなり、教育改革こそ、地方創生のカギなのではないかと思い至った。

 「白馬村は素晴らしいポテンシャルを秘めているにもかかわらず、伝統校ですら廃校の危機にある。教育に不安があると、若い世代が土地を離れてしまう」と考えた草本氏は、日本のみならず世界から生徒の集まるインターナショナルスクールを設立したいと考えるようになった。

 「公立学校の改革も試みたが、やはりハードルが高いと痛感した。私立の学校として、これからの未来を生きる子供たちに理想的な環境を提供したい。生徒たちには、自然の中で遊び、体験し、学ぶことを通じて、人は自然の一部であることを体感してもらうことで、本当の『サステナビリティ』を学んでほしい。教育こそが、持続的可能な社会を創り上げていくために欠かせない要素であると考えている」と草本氏は言う。

 共同生活の中での学びも大切にしたいという想いから、ボーディングスクールの形態をとっているが、コロナ禍において移住のハードルが下がったこともあり、家族で白馬に移住し、家から通う生徒も受け入れる。日本初の「サステナビリティ教育」が最大の特徴である同校は、実社会や生活に紐づいた課題を題材にし、グループワークで取り組むというプロジェクト型学習(PBL)中心のカリキュラムを開発中だ。

 心理学や脳科学を取り入れつつ、思春期の発達理論に基づき、心理的に安心安全な環境で健やかに成長する機会を保障することで、すべての生徒が幸せに豊かな人生を歩む礎を築くための社会性と情動の学び(SEL)にも力を入れる。持続可能で公正な社会の担い手を育てることを目的とし、子供たちひとりひとりが、自分の良さを発揮し、自分らしく生きながら、どのような形で社会に貢献するかを見つけられる学校を目指している。また、卒業後の選択肢を増やすためにも、文部科学省による一条校の認定、および国際バカロレア認定校の資格も取得する計画だ。

HISのカリキュラム

 もともとは海外からの生徒を多く受け入れる予定であったが、初年度となる2022年においてはコロナ禍の影響を勘案し、国内の生徒が中心になるという。国外の生徒を積極的に受け入れたいとの想いの先には、国際平和につながるという信念があるからだ。「同じ環境で兄弟同然に育った仲間の国に戦争を仕掛けるような人はいない。ボーディングスクールとして、さまざまなバックボーンをもった人が一緒に生活することが、より良い世界に繋がると思う」と草本氏は語った。

HISが掲げる「サステナビリティ教育」とは

 HISが掲げるサステナビリティ教育とは、どのようなものか。いまや子供でも知っているSDGsや気候変動という社会課題。頭で理解するだけでは、行動は伴わず、持続可能な社会へのアクションは起きない。白馬で生活をしていると、降雪量の減少や桜の開花時期等、自分の体験の中で社会課題を肌で感じることができるという。この原体験こそ、地球規模で持続可能な社会を築くためのアクションにつながっていくと草本氏は語る。白馬だからこその活動を重視し、アクティブ活動はもちろんのこと、地元の学校や企業との共同プロジェクト等、課外授業も検討中だ。

学習面以外でもサステナブルを意識している

 教育内容だけでなく、学校の在り方もサステナブルを強く意識して構想中だ。校舎や寮での生活では、限りある資源を大切に、なるべく循環する方法をとる。制服も、個人が買い取るのではなく、学校側が貸し出す形にする等、工夫を凝らす。

 「日本においてもさまざまな新しい教育方法が注目され、先進的なカリキュラムを提供する学校が増えてきた。そのような学校からも学びつつ、白馬から持続可能な新しい教育モデルを世界に提案できるようになりたいと考えている」と草本氏は語った。

子供に必要なものは何か

 オルタナティブスクールや、インターナショナルスクールを立ち上げた炭谷氏、末松氏、草本氏。3名が口を揃えて大切だということは「子供の自主的な学びの姿勢の構築」だ。デジタルやAIが今後さらに発展した時代を生きる子供たちに、インプットに偏った勉強では生きる力を育むことができない。誰かに言われたことを完璧にやるのではなく、自ら発見した課題に集中し、さまざまな解決方法の中から試行錯誤する力をつけることこそ、子供にとって必要である。そのために必要なことは五感を使ったフィールドワークであり、自然の中で体を使って遊ぶことだという。

 そのような力を養うための新しい学校は、すべての子供たちに提供できるわけではない。しかし、選択肢として選ぶことができることは、未来が拓けることでもある。

 最後に、モデレーターの谷川氏から「学校設立で、何が一番困難であったか」という質問に対し、3名共に「生徒募集」であったと言う。教育の効果は一朝一夕では表れないため、新しい教育についての保護者との信頼関係が重要だという。「子供の将来を預かるにあたり、私はどこまでできるのだろう、と不安にもなるが、この選択肢が1人でも多くの未来を担う子供たちのためになると信じている」と草本氏は述べた。
<田中真穂>