いじめ・人権問題に向き合う「Changers」無料教材

公開日時:2024-12-09 15:15:03  
カテゴリ:教材・サービス/その他

Changers(チェンジャーズ)
Changers(チェンジャーズ)
2024年11月15日、市原市立石塚小学校4年生を対象に行った授業風景(授業者:下大澤翔吾先生)
2024年11月15日、市原市立石塚小学校4年生を対象に行った授業風景(授業者:下大澤翔吾先生)
無料のマンガ教材
無料のマンガ教材
 「いじめや人権、話し合おう、変えていこう。Changers(チェンジャーズ)」は、授業づくりの専門家と各界のクリエイターが共同で開発した無料教材プロジェクトである。このほど、同プロジェクトが提供する教材の累計ダウンロード数が2万4,050件に達し、多くの教育現場での活用が進んでいることが明らかになった。集計期間は2022年4月1日から2024年10月31日まで。

 「Changers」は、教育現場でのいじめや人権問題に焦点を当て、児童生徒と大人が対話を深めるための教材を提供してきた。さまざまなテーマで描かれた多様なマンガ教材は、全国の学校、家庭、地域で広く活用されている。2024年10月末時点で2万4,050件ものダウンロードを記録し、教育現場での大きな反響を呼んでいる。このプロジェクトでは、いじめや人権に関するリアリティのあるシナリオをもとに、子供たちが多様な視点から議論できる教材を開発している。

 特に、マンガ形式の教材は子供たちの興味を引き、短時間で対話を促す効果が高いと評価されている。また、GIGAスクール構想に対応したデジタル教材として、PDFやパワーポイントファイル、動画なども提供されており、オンライン授業にも対応可能。これからも、「Changers」では新しい教材の開発と無料公開を継続し、いじめや人権問題に関する教育を支援していく。

 千葉県市原市立石塚小学校の下大澤翔吾先生は、「SOSの出し方に関する教育」の一環として授業を行った。この授業では、事前に保護者からのアンケートを実施し、「もしこのようなことが自分の子供に起こり、相談されたらどんな言葉をかけてあげたいですか?」という質問に回答してもらった。授業では、登場人物の心情を丁寧に扱い、考え方は人それぞれ違うということを理解しながら、自分自身が苦しい状況をどのように変えることができるかについて考えた。授業の終盤では、保護者からのアンケートの一部を紹介し、相談することで解決の糸口を見つけることができることを児童たちに気づかせたという。

 千葉県旭市立干潟小学校の山崎智子先生は、「Changers」を道徳科や学活の時間に活用している。どの教材も子供たちにとって身近な問題を扱っており、「今」、そして「これから」を生きる子供たちに考えさせたい内容である。どこにでも起こりうるいじめ。自分ではそのつもりはないけれど、相手の立場になって考えることで「これっていじめかもしれない」ということに気付くことができる。また、短時間で見ることができ、話し合いの時間を十分とることができるという。

 企業教育研究会の古谷成司先生は、この教材は身近によくあるような出来事をもとに、葛藤が生まれやすい内容で構成されているため、教材の世界に容易に入ることができ、自分事として考えることができるので誰もが自分の考えをもつことができる。そして、意見が一方に偏るということが少なく、多様な意見が生まれやすいので、活発な話し合いになることがほとんどである。また、数分のアニメ教材なので個人で考える時間や話し合いにかける時間を多く取ることができ、まさしく考え・議論する道徳にもってこいの教材であるという。

 柏市教育委員会では、全国的な傾向と同様に、いじめや不登校が増加している。「Changers」は、身近に起こりうる内容でありながら、学校の教育課程ではなかなか学ぶ機会がない題材を扱っており、人権教育の視点から「いじめ」や「SOSの出し方」等について学べる教材である。子供が親しみやすいアニメ動画による導入や、身近な内容により葛藤が生まれやすいこと、また、教員にとっても指導案がダウンロードできる良さがある。子供たちが「Changers」になれるよう活用の推進を図っている。

 四日市市教育委員会では、2024年度より、「Changers」で発信されている教材を活用し、いじめ予防教育を推進する「Changersプロジェクト」を始めた。2024年度はプロジェクト第1弾として、数校の小学校6年生で、4作品を週1作品のペースで1か月にわたり実践し、効果を検証する取り組みを行っている。どの作品も、どの学級でも起こりうるような身近なエピソードで構成されていることから、多様な意見がたくさん出て、自分たちの学級にあてはめて考えることができる。今後は市内全校が、各校の課題に応じた作品を選択、実践するとともに、現場の先生方と連携し、新しい教材開発も行っていく予定であるという。

 「Changers」教材シリーズは、1作品が4〜8コマのマンガで構成されている。マンガの作者は作品ごとに異なり、学校や家庭、地域などさまざまな場所で活用できるよう、動画教材(YouTube)と静止画教材(パワーポイント)、PDF、イラスト画像(jpeg)、モデル指導案やマンガ台本を無料公開している。教材はダウンロードも可能で、児童生徒の学校支給端末でも閲覧できる。

 また、モデル指導案を掲載しているが、柔軟に授業を展開でき、クラスや子供たちの実態に合わせ、話し合いが深められる。1つの教材の中に、複数の問題が描かれており、主人公以外の視点から議論をすることが可能。道徳科、特別活動、総合的な学習の時間など、さまざまな教科・活動で活用できる。

 文部科学省の調査によると、2023年度のいじめの重大事態の発生件数は1,306件となった。社会全体でいじめ防止対策が推進されているとはいえ、まだまだ苦しむ子供の数は後を絶たない。いじめは、固定化された人間関係や集団の中で生じる独自のルールやノリから発生していると考えられている。学校のような閉ざされた人間関係の中では、相手が悪いからいじめてもいい、いじめても相手が苦痛を感じていないと考えるなど、いじめや差別が正当化されてしまうことがある。

 そこで、「Changers」プロジェクトは、教育の専門家とクリエイターとともに無料で公開するマンガ教材を開発した。善悪がはっきりしない状況や、つい見落とされがちな繊細な問題を積極的に取り上げ、リアリティのある物語として描いたマンガ教材を開発し、無料で公開している。
<佐藤愛>