教育現場では今、GIGAスクール構想による1人1台端末の更新時期を見据えたGIGAスクール構想の第2期(以下、NEXT GIGA)と、次世代校務DXにどう対応していくかに論点が移っている。なかでもデータ連携基盤(ダッシュボード)は、教職員の働き方改革と教育活動の高度化に向けて多くの自治体で検討と導入が進められている。そうした中、小学校の漢字ドリルや計算ドリルで馴染みのある総合教材会社「文溪堂」が、小中学校に向けて「スマートダッシュボード」を2025年4月にリリースする。
この新たなダッシュボードの開発の背景や、データ連携される文溪堂のサービスの概要などを、文溪堂 ICT事業本部 文教ソリューション部 企画課の藤川航一氏に聞いた。藤川氏は現在、文溪堂が有する教育ICTサービスのシステム開発や保守を担当。今回のスマートダッシュボードの開発でも中心的な役割を務めている。
教育ICTでも学校を支える「文溪堂」
--文溪堂と学校のこれまでの関わりについてお伺いします。
文溪堂は1900年に本屋として創業されました。1932年に国語・算数の練習帳や書き方手本などのさまざまな教材の出版を始め、1956年には小学校向けの漢字ドリルや計算ドリルを発行しました。ドリルの表紙にディズニーのキャラクターをあしらい、ミッキーのドリルとして特に小学校の先生方にはお馴染みだと思います。また裁縫や彫刻刀のセットなどの教具も多くの学校でお使いいただいています。
そしてここ20年ほどは、小学校・中学校でご利用いただくデジタル系のサービスにも注力し、現在では統合型校務支援システム「Te?Comp@ss(ティー・コンパス)」、紙の連絡帳をデジタル化した「スマート連絡帳」、テストの得点を記録し成績に反映できる「てんまる」など、文溪堂のサービスや商品は学校の至るところでご利用いただいています。
--先生方のICT利活用に関する意識に変化を感じられていますか。
教育現場では今、NEXT GIGAや先生方の働き方改革が声高に叫ばれています。私たちも学校や教育委員会の皆さまに現場のようすを伺いますが、特に管理職の先生方の意識が変わってきたように感じています。自治体や学校によってはすでにかなりの知識をおもちで、NEXTGIGAに向けた文部科学省および各行政機関の施策が着実に教育現場へ浸透してきた印象です。その一方で、教育現場の大部分を占めるクラス担任の先生からは、そもそもICTを使いこなす時間がない、どんな効果があるのかわからない、といった声もいただきます。やはり、日常的に児童生徒と接する先生方にとって、無理なくICTを利活用できる環境が整うまでにはまだまだ課題があるように感じています。
先述の課題に対して文溪堂は、TeComp@ssをはじめとする各種サービスにおいて、直感的な操作性とデザインでICTを使いこなさなくても利用できる使いやすいサービスのご提供を心がけて来ました。近年ではEDIXへ出展するなどして、各種サービスの活用事例や導入効果を積極的に発信しながら、学校現場の皆さまへの理解浸透を図っていく活動にも力を入れています。
スマートダッシュボードに連携する文溪堂の3つのサービス
--スマートダッシュボードに連携されるサービスには、どのようなものがあるのでしょうか。
文部科学省では、ダッシュボード機能について「クラウド上やサーバー上に存在するさまざまなデータを自動的に収集、分析、加工して簡潔にまとめ 、集計値や表 、グラフなどで視覚的にわかりやすく一覧化した画面のこと」と定義していますが、クラウド上などに存在するさまざまなデータを収集するには数多くあるメーカー間の協力が必要であり、現時点で実現するには課題も多いと考えました。そこで初期段階として、まずは自社サービス間のデータだけでも便利に活用いただけるサービスにならないかと検討を重ね、文溪堂が提供している「Te?Comp@ss(校務支援システム)」「ここタン(健康観察・教育相談システム)」「STARアセスメント(アセスメントシステム)」の3つのサービスを連携することにしました。
Te-Comp@ssに蓄積された出欠席の状況や保健室への来室状況と、心と体のようす、さらには児童生徒のアセスメント結果を俯瞰して閲覧可能にすることで、学校現場の先生方に、いち早く児童生徒の「小さなSOS」に気付いていただけるためのサービスとしてリリースする予定です。
なおこの3つのサービスに加えて、ご要望に応じて自治体ですでに導入している他のサービスなどを連携させることも可能とし、また将来的には自治体のニーズに合わせて必要に応じて各種クラウドサービス提供事業者さまとの連携も視野に継続的なブラッシュアップを行っていく予定です。
--3つのサービスについて教えてください。
統合型の校務支援システム「Te?Comp@ss」
統合型の校務支援システム「Te?Comp@ss」は、児童生徒の出欠管理や保健室への来室記録、健康診断の情報、成績の情報、先生方が連絡を取りあうグループウェア、メール、先生方の勤怠管理など、ほぼすべての校務分掌の範囲を網羅しています。
Te-Comp@ssは手作業や個別のシステムで行っていた煩雑な処理を一元化して校務の負担を軽減することが可能です。また学校内にある個人情報をサーバー管理することでセキュリティを保つことが可能です。
教材会社として長年学校現場の皆さまに寄り添ってきた強みを生かして、ユーザーの声を第一に反映させつつ使いやすさにこだわったシステムです。
ケアが必要な児童生徒を見逃さない「ここタン」
「ここタン」は、児童生徒の心と身体の健康を把握して、ケアが必要な児童生徒を見逃さないためのシステムです。児童生徒自身が毎日、その日の気持ちを5段階のマークで伝え、身体の調子もあわせて登録します。
またここタンには、先生方に気軽に相談できる「聞いてほしい」という機能もあります。児童生徒が自分の気持ちを、聞いてほしい先生を選んで発信することができます。たとえば、友達と喧嘩した場合は「友達のこと」というカテゴリーを選び、「聞いてほしい」を押すと、聞いてほしい先生にだけ情報が届きます。トラブルの相手は児童生徒でなく先生のケースもあるため、ほかの先生に知られないようにSOSを出せるというわけです。また相談には、内容を文章で書くのではなく、「友達のこと」「先生のこと」などの項目を選択して送信するだけで良く、児童生徒が相談する際の心理的なハードルを取り除くよう配慮しています。
STARアセスメント
「STARアセスメント」は、児童生徒の状況を把握し学校の課題解決につなげていただくことを目的に2024年度から提供しているサービスです。まず児童生徒に言葉の分類ゲームといった10分程度のミニゲームとアンケートに参加してもらい、その結果から児童生徒が抱える内面と環境の2つの課題を分析します。STARアセスメントはゲーム形式で児童が負担なく取り組めることと、「非認知能力」と言われる児童生徒の「協調性」や「自制心」などに対する分析項目が豊富に用意されていることが大きな特徴です。このSTARアセスメントは、教育学や心理学の研究をされている岐阜大学大学院 教育学研究科 吉澤寛之教授の監修のもと作られました。
分析結果として、たとえば「思いやりはどのくらいあるか」「道徳的な判断はどうか」など、個々の児童生徒の内面が数値化され可視化されます。また取り巻く環境では、「周りの大人からどれだけ受容されているか」「周りの大人がどれだけ安定しているか」「友達との関係はどうか」などが可視化されます。要支援度の高い児童生徒がいる場合は、どのような課題があるのかを把握していただくための情報を提供します。先生方はお子さんたちを身近で見守り理解されていると思いますが、指導のアプローチにおける判断材料のひとつにしてもらえたらと考えています。
校務DXと教育の高度化に欠かせないダッシュボード
--「スマートダッシュボード」開発の経緯を教えてください。
2023年3月に文部科学省より示された専門家会議の資料「GIGAスクール構想の下での校務DXについて〜教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して〜」には、データ連携基盤となるいわゆるダッシュボードの創出もはっきりと明記され、その目的には教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化があげられています。その実現のためには、学校にある教育データの利活用が必要不可欠です。
文溪堂には「教材会社」から「教育総合サービス会社」へという想いがあります。10年以上にわたり各種サービスを学校に提供させていただく中で積み上げてきた経験もあり、そうしたサービスからの情報を収集・集計して、分析・可視化することで、文溪堂だからこそできるダッシュボードが作れるのではないかと企画段階で話しあわれました。
そして、このスマートダッシュボードではクラウドの基盤にAmazon Web Services(以下、AWS)を採用しました。AWSはゼロベースからの開発に比べてコストの見通しが立てやすく、基盤構築に関わるさまざまなサービス、たとえばセキュリティ系のサービスや機能的な仕組みがすでに用意されています。BIツール(Business Intelligenceツール:さまざまなデータを分析・可視化するツール)は今、多くの企業に浸透しています。それが教育現場でも活用されれば、これまでの感覚や勘による判断が徐々に定量的になるのではないかと考えています。さらに個人情報を扱うには、セキュリティはきわめて重要です。AWSは米国国防総省などの機密データの扱いにも実績のあるプラットフォームで、さまざまなサービスを組みあわせたセキュリティ対策を柔軟にできることにも信頼がもてました。
直感的に情報を辿れるスマートダッシュボード
--文溪堂のスマートダッシュボードとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
まずは職種に合わせたダッシュボード画面が大きな特徴としてあげられます。管理職者シート・クラスシート・児童生徒シート・教員シートの4つのシートに情報が分かれています。
「管理職シート」はおもに教務主任の先生や教頭先生、校長先生にご覧いただくシートで、学年・クラスごとの状況が確認できます。欠席者の推移では、学校全体や各学年・各クラスの推移が閲覧でき、自分が見たいクラスを指定すればグラフで確認できます。
特定のクラスで欠席者数が増えていれば、トラブルや感染症が発生しているなどの兆候を捉えられる可能性もあります。またSOSを発している児童生徒がいるクラスや、その内容、さらに先生による対応状況なども視覚的に確認することができます。
「クラスシート」では、情報のまとまりをクラス単位にして実態をさらに細かく把握することができます。
さらにその先は「児童生徒シート」で欠席数や欠席率といった児童生徒ごとの情報を、さらにここタンの情報で心と身体のようすも確認できます。
こうして学校全体から、クラスごと、さらには児童生徒ごとの情報へと直感的にアクセスできる仕組みです。
「教員シート」ではスマートダッシュボードにアクセスしている先生に紐づいた情報のみが掲載され、ほかの先生の情報は一切見られません。先生自身がどのぐらい残業しているか、時間外勤務の仕事の内容、基準時間の何パーセントに達しているかといった勤怠情報が確認できます。
また、児童生徒から先生に向けた相談依頼(ここタンの「聞いてほしい」)の発信者や内容、対応状況などもこのシートで確認できます。
スマートダッシュボードでは操作性にもこだわりました。たとえば、管理職シートで気になるクラスがあれば、そのクラスをクリックすると目的のクラスシートに遷移します。児童生徒名をクリックすればその児童生徒の情報へ遷移するなど直感的な操作が可能です。これまで表計算ソフトで管理していてデータの整合性やメンテナンスの負荷も大きかったものが、スマートダッシュボードで統合的に集約されて、視覚的にもわかりやすく、知りたい情報にリーチしやすくなります。2025年4月に向けて、実証実験を行い、現場の声を生かした形でリリースに臨みます。
コンテンツ力を強みに、学びの高度化へも対応
--スマートダッシュボードを利用することで学校現場はどのように変わるとお考えでしょうか。
スマートダッシュボードを開発するにあたり、多くの先生方からお話を伺いました。クラス担任の先生方はさまざまな時間で児童生徒のようすを見ていて、管理職の先生方は校内巡視で児童生徒の学校生活全般を見ています。こうした中で、気になる児童生徒がいたら、スマートダッシュボードで出欠情報や心身の状況、先生にSOSを出しているかなどを確認できます。
また現在のスマートダッシュボードでは「評価・評定」という形で、クラスごとの3観点「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」の評価や教科別評定、さらに児童生徒ごとの評価・評定も確認することができます。
さらに、自治体さまや学校現場の皆さまにスマートダッシュボードを積極的に活用していただくために、ご要望にあわせたグラフのカスタマイズや連携するデータソースのカスタマイズが可能になっていたり、サービスを導入いただいた後も継続的に使用感やご要望をヒアリングさせていただきながら、自治体さまが目指す教育目標や学校現場の課題解決に細かく対応していくことも予定しているため、ユーザーさまの運用に寄り添いながらサービスをブラッシュアップしていけるところも魅力のひとつだと考えています。
今後はさらに、文部科学省の求める学びの高度化への対応についても検討を進めていこうと考えています。今後の展望としては、文溪堂の強みである教材コンテンツを作る力を生かしながら、個別最適な学び、協働的な学びを実現するためにスマートダッシュボードをどのように活用できるのかを考えていきたいですね。
スマートダッシュボードによるデータ分析ツール活用の本質は、課題解決の道筋を見出して、それらを先生方で共有していただくことです。複雑化・多様化するデータを可視化して、新たな気付きが得られるようにしていきたいです。まずは、児童生徒のSOSを見逃さないといった先生方の支援にフォーカスして提供を開始しますが、今後も教育総合サービス会社ならではのさまざまなチャンネルを使って、自治体さまや学校現場の皆さまの声を拾い上げながら、継続してサービスのブラッシュアップをしていきたいと思っています。
将来的には校務系データと学習系データの相関分析機能や、通知表の代わりとなる児童個別のレポート機能などの実装に挑戦し、学校における働き方改革の推進にも資するサービスにしていきたいと思っています。
文溪堂--ありがとうございました。
現在、多くの自治体がダッシュボードを検討、あるいは導入を進めているが、校務系・学習系を融合した教育データの利活用は道半ばといえるだろう。学校と共に教育を支えてきた文溪堂のスマートダッシュボードのリリースと、教職員の働き方改革と教育活動の高度化の実現に期待したい。
【協賛企画】アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
スマートダッシュボードを含む校務DXサービスで教育総合サービス会社への変化に挑む文溪堂
公開日時:2024-12-10 11:15:03
カテゴリ:教材・サービス/校務
- 管理職シート「聞いてほしい」
- 提供:文溪堂
- クラスシート「出欠席状況」
- 提供:文溪堂
- 児童生徒シート「出欠席状況」
- 提供:文溪堂
- 児童生徒シート「心の様子・体の調子」
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- 教員シート「勤怠」
- 提供:文溪堂
- 教員シート「聞いてほしい」
- 提供:文溪堂
- 文溪堂 ICT事業本部 文教ソリューション部 企画課の藤川航一氏
- 撮影:市原達也
- 文溪堂 ICT事業本部 文教ソリューション部 企画課の藤川航一氏
- 撮影:市原達也
- 文溪堂 ICT事業本部 文教ソリューション部 企画課の藤川航一氏
- 撮影:市原達也
- クラスシート「評価・評定」
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- 提供:文溪堂
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<佐久間武>
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